はじめに
はじめに
今、世の中ではスマートフォン市場が急速に拡大している。
2009年度にiPhoneの好調販売により、日本国内市場でのスマートフォン販売台数は200万台を越え、2010年度には400万台に近づく見通しとなり、2015年度までには国内携帯電話販売台数の半数以上がスマートフォンになるとの予想も多い。
世界的に見ても同様の傾向となっており、2010年度には携帯電話市場全体の20%以上となる2億台強がスマートフォンとなっており、2015年度には全体の42%となる6.5億台の販売が見込まれている。
iPhoneに代表されるスマートフォンの登場は、多くの人々の生活を飛躍的により利便性の高いものへと変えることとなっており、それがこうした数字に顕著に現れていると言える。
こうした起爆剤となる製品,テクノロジーをいち早く世の中に出したアップル,スティーブジョブスは世界中の多くの人々の生活を大きく変えることに成功し、莫大な利益も併せて享受することとなった。
何故それが可能であったか?
2000年台初頭にはアップル社もここまでかと噂された程の経営危機に瀕していた状況から、2004年にスティーブジョブスが舞い戻ると、iPod,iPhoneと次々に革新性品を世に送り出し、わずか5年で経営を立て直し、今や企業価値ではマイクロソフト社を抜くにまで復活を遂げている。
その原動力はひとえにスティーブジョブスの経営手腕によるものが大きいと言わざるを得ないだろう。
人の使い方、技術だけでなく、デザインやビジネスの仕組み作りへのこだわり、そして自らが先頭に立って行う広報活動、これらにおいてスティーブジョブスは卓越したマネージメント手腕を大いに発揮し、この復活,成功にアップル社を導いた。
スティーブジョブスの頭の中には、5年先、10年先の人々のライフスタイルがはっきりと見えているのではないだろうか?
いや、その原動力は、恐らくスティーブジョブ自身が、現在のライフスタイルに満足せず、もっと便利に、もっと快適にという欲求を持ち続け、それを実現する為の知識と意欲を確信という自信をベースに持ち続けているからに他ならないと思われる。
しかし、iPHoneという商品を、ただ全面タッチパネルが付いたネットサーフィンができるだけの電話として出していたら今の成功はなかっただろう。
実際、エプソンは世界に先駆けてiPhoneと同様の機能(電話,全面タッチパネル操作,GPS内蔵,等)を持った製品”ロカティオ”を世に出したが、成功には至らなかった。
その差は何か?
もちろん早く世に出しすぎて、インフラ環境がそれを十分に活用するには至っていなかったということもあろう。
しかし、一番大きな違いはiPhoneはiTunesやAppStoreとの連携により、製品自体だけではなく、これを使ったビジネスの仕組みも併せて世に送り出されたことであろう。
アップル社は今より17年も前に製品化したNewtonの失敗でそうしたビジネスの仕組み作りの大切さを学んだに違いない。
つまり、今の時代、製品ビジネスで成功を収める為には、素晴らしい製品だけでは難しく、素晴らしい製品と共にそれをビジネスにする(=利益を生み出せる)仕組みを創ることが不可欠なのである。
ハードウェア,ソフトウェア,インターネットそしてサービス、この4つを組み込んだビジネスモデルを創り上げることが不可欠なのである。
また、そうしたビジネスモデルを考える上で最も重要なことは、顧客視点で考えることだ。
頭ではわかっていても、なかなか実行にうつせないのが“顧客視点”での事業戦略、経営戦略の策定だ。 特に技術を売りにしている多くの企業が、口では“顧客視点”といいながらも、実際には“プロダクトアウト”の発想、戦略策定をする傾向が強い。 我々の会社はそうなっていないだろうか?
いくら優れた技術、革新的な製品があっても、それを使いたいという人がいなければ単なる自己満足に終ってしまう。
人々がこれからの社会で何を欲するか、そうした視点でこのレポートは極力書き進めてゆきたい。
社会からの強いニーズがあるということは既に顧客がいるということであり、それはビジネスになる可能性が高いということでもある。
新しい産業は既存技術の組み合わせや新しいアイデアから生まれる場合もある。 だが、新技術の登場は既存産業にイノベーションをもたらし、社会の新しいニーズを生み出したり、競争ルールを一変させたりする力があるのもまた事実である。
しかし、それが具体的にどの分野でどのような技術が、どのようなタイミングで出てくるのか、その影響でどのような変化が起こるのか、となるとなかなか見えてこない。 先端技術は縦割りの最たるものであり、専門家でもないのに首を突っ込むのは他人の庭を荒らすような感覚で見られることが少なくない。半面、新しいビジネスは異なる分野にある技術の掛け合わせから生まれることもある。
21世紀の新しいビジネスをつくるには、専門分野に囚われすぎず、できるだけ広い視野で見ていくことが重要なのである。
社会は今、歴史の転換点にさしかかっている。
我々も何となくそうした兆候を感じてはいるのだが、どうしても個々の専門分野、専門知識の枠に視点を置きがちで、その転換の元となる原因が見えてこない。
その大きな流れは、社会の姿を新しい「カタチ」へと変えようとしている。
様々な分野、時にはこれまでは全く畑違いと言われた分野の産業が、自分たちの得意な技術を応用したり、他業種企業と提携したり、業種という垣根がなくなったりして、今までになかった新たな産業が生み出されたりもするであろう。
これらを含むすべての産業は、社会の要望に応えたり不満を解決したりするための手段を提供するものであり、場合によっては産業構造や経営形態も変わってくる。
本来、企業としての中長期戦略立案は、今の商品やビジネスをどうすべきかではない。
社会がこれからどうなるかを予測して、そこから必要とされるビジネスを考えていくことである。
その為には、これからの社会がどのようになってゆくのか、我々を取り巻く環境はどのようになってゆくのかをできる限り広い範囲で考察し、インフラ環境も含めて5年から10年先を見据えた近未来のライフスタイルを考察した上で、我々もこれから何をすべきであるかを論じることとする。