オートモーティブ・ビジネス
オートモーティブ・ビジネス
オートモーティブ・ビジネスの中心は「サービス」へ
●自動車は、単純な物販から、サービスまでを含めたトータルな商品へと形を変える。むしろサービスの要素の方が強くなる。自動車とのブロードバンド接続は、WiMAXもしくは4Gが使われる。ブロードバンドを通じてナビゲーションは、地図情報が常に最新のものが利用できるのはもちろん、音声を使ったインタラクティブなものに進化していく。位置情報に連動して新しいタイプの電子広告も登場する。
ゲームや音楽を楽しんだり、テレビ電話のコンシェルジュを通じて目的地周辺の案内や予約・手記.などもできたりするようになる。
様々なサービスが利用できるようになることで、車内は各シートにディスプレイが付くのが一般的になる。自動車のカーナビはカーコンピューターヘ進化すると共に、車内サーバーとしての機能を持つようになるだろう。
ブロードバンドによってクルマが常時接続でつながることで、メーカーが情報を常に収集し、走行中や修理、メンテナンスなどの履歴を一元的に管理することが可能になる。 修理やメンテナンスなどに、個別にきめ細かく対応できるようになるだけでなく、車種や年齢層、趣味などに応じた情報提供ができる。
例えば、カーナビ上でポップアップされる情報や広告も個人によって変えることも可能となる。 テレビ局と提携した有料サービスによる番組の再配信も活発化する。
重要なことは、メーカーと利用者がつながることで、アイデア次第で様々なビジネスチャンスが広がるということである。
自動車内は独占的な空間であり、利用者のプロフィールが分かれ極めて魅力的な市場になる。
商品ラインアップは四輪車だけではない。 現状では二輪車業界と四輪車業界は別々の業界であり法規制も異なるが、電動化によってその境界線も薄れていくと考えられる。
都市部を中心に、自動車とオートバイの中間的なサイズである三輪車も増える。 動力がモーターになることでタイヤがない乗り物、つまりロボットやパワードスーツも事業領域の一角を占めるようになる。
医療や建設、農業など、幅広い分野で身体機能を拡張したり、作業を支援することでマンパワー不足を補ったり、という時代が来ると予想される。
ワンタイムの物販からライフサイクル・ビジネスヘ
環境や資源問題が深刻化すると、新車をどれだけ多く売るかという「数」の商売は難しくなる。
そうなると、客と継続的なつながりをつくり、1人の顧客からライフタイムでどれだけ収益を上げられるかという考え方(ライフタイムバリュー)が強くなる。
そのためには長期使用を前提とするモノ作りへの転換と、メンテナンスやサポート、情報提供、アフターパーツの充実などサービス部分の整備が不可欠になってくる。
「モノ+サービス」という総体が、自動車の商品価値になっていくのである。
ライフタイムバリューの観点では、長期使用を前提に「ホンモノ」のクオリティーを提供することが極めて重要となる。
「数」で稼ぐコモディティーのビジネスであれば、数年しかもたないクオリティーで済む。 長持ちする商品はむしろ、オーバースペックでしかない。
だが、できるだけ長く使ってもらうビジネスでは、質の良さはもちろん、モノへの愛着を生み、使い込むほど味が出るような「奥行き」が重要になっていくだろう。
それは、新興国から続々と登場する低価格車との差別化にもなる。
自動車のライフサイクル全体を考えると、モノの部分では、新車販売はもちろん中古車販売や買い取りなどのビジネスがある。
カーナビやアクセサリーなど、アフターパーツのビジネスは「奥行き」である。
さらにサービスの部分では、保険やローン、補給やメンテナンス、故障のサポートや修理などユーザーとのつながりが濃くなるほど、収益を上げられる機会も増える。
一つのモノの価値を高めると共に、ライフタイム全体で収益を上げるビジネスモデルへと転換するだろう。
資源の枯渇問題や原料価格の上昇を背景に、メーカーでは原材料の確保が死活問題になる。
原料価格が上昇すると資源をリサイクルした方が製造コストが安くなるため、常時接続を活用したトレーサビリティーに注力するようになる。
部品交換や廃車まで追跡L、積極的に回収するというスタンスに変わっていく。
自動車のブロードバンドサービスは巨大事業へ発展
現在日本で使われている自動車は、トラックなども含めると7千万台以上にのほる。その半数がブロードバンドにつながると仮定すると、将来的に通信費だけでも年間1兆円を超えるビジネス規模になるのは確実だ(月嶺3000円×12カ月X3500万台=1.26兆円)。
さらに、コンテンツや広告などが絡んでくれば、瞬く間に数兆円規模になる。
自動車がブロードバンドに接続されるということは、ユーザー側だけでなくビジネス側にも非常に大きなインパクトがある。
自動車がマーケットプレイスの機能を持つようになると、自動車会社は決済のために「銀行」を立ち上げると考えられる。 利用者が口座を開設すれば、個人情報や資産情報といった様々な情報が手に入るようになり、これを活用すれば、マーケテイングの精度が格段に高まる。
自動車は、放送を受信する対象としても重要になる。
自動車の数は世帯数よりも多く、放送事業者にとっては巨大で魅力的なマーケットである。
自動車メーカーのシェアは「視聴率」にも直結するため、放送局にとっても重要になってくる。 将来的には、自動車メーカーがブロードバンドを通じた「放送」に進出する可能性も考えられる。
大容量メディアとブロードバンドが揃ったことで、自動車向けの新しい映像サービスが次々と登場する。
映画やテレビ番組の再放送だけでなく、例えば渋滞の様子を映像で配信する、行楽地の天気などをライブ映像で流す、といった自動車向けならではのサービスも登場する。
ブロードバンドの特徴の一つは「常時接続」である。
これによって、メーカーは利用者や車両の位置を常に追跡し、走行距離や部品の交換、事故による修理といった様々な履歴をほぼ完全に把握できるようになる。
これらのデータは、ローンや保険、車検、アフターパーツやカスタムパーツなどの営業・販売に寄与する。
乗り換えの際には、中古車の査定も、より適正に行えるようになるだろう。
クルマのカタチが変わる
自動車のラインアップも広がる。
電気自動車は2025年ころには、10分以内の充電で300km以上は確実に走れるようになる。
家を出発する際には基本的に満タンであり、駐車スペースにはどこでも充電設備が備えられるようになっているため、「電池切れ」を心配する必要はなくなるだろう。
エンジン車はなくなるわけではないが、業務用や趣味性が強い車種に限られる。エンジン車はディーゼル車が中心になる可能性が高い。
様々な社会背景を受けて超小型車のニーズが急拡大し、最もメジャーなカテゴリーになる。
小型車は経済性を重視し、ほとんどが電気自動車になる。 先進国と新興国では、それぞれ期待される性能や発展プロセスが異なる。
先進国では環境問題や燃料費の高騰、駐車場確保の課題などを背景に、「四輪者からのサイズダウン」志向が進む。
パーソナルなライフスタイルに馴染む、よりコンパクトな自動車が求められる。
これに対して新興国では、経済発展に伴う「二輪車からのステップアップ」という位置づけとなる。 雨に濡れずに荷物を運べるような乗り物は欲しいが、価格や維持費を考えると四輪者に簡単には手を出せないといった要求に応えるクルマである。
ニーズの変化に加え、画期的な変化として電池やモーターが主役になる。
電気自動車への転換によって、自動車の基本形が劇的に変わる。 電気自動車はボンネットヤ車体中央を貫くドライブシャフトが不要であり、デザインの自由度は飛躍的に拡大する。
エンジン車の様な熱対策は必要ないため、材料を再資源化しやすい軽いものに変更にすることも必要である。 従来の自動車とは「一線を画すようなデザインの小型電気自動車が次々に登場するだろう。
パーソナルカーの形状は、最初は四輪者をショートサイズにしたようなものから、やがてトライクル(三輪自動車)が主流になっていくと予測する。
電気自動車の大ヒットは二輪車の世界から出てくるだろう。質量とパワーの関係から考えても二輪車の方が電動化しやすく、社会に定着するのは自動車よりもずっと早い。
中国では電動バイクの普及が本格化しており、2008年だけでも2000万台が生産されたと推計されている。
中国の現行法では電動スクーターは免許もナンバーも、さらにヘルメットも要らないとされており、その手軽さが普及を後押ししている.中国国内だけでこれほど膨大な数を生産すれば、二輪車メーカーだけではなく2次電池メーカーも力をつけてくる可能性が高い。
電気自動車が普及すると、住宅のあり方も変わってくる。
騒音や排気ガスの臭い、オイル漏れなどの問題がないので、自動車を家の中で保管するスタイルが増えてくる。
いたずらや盗難の心配が少なくなるし、雨ざらしにならないため洗車が楽になる。
都市部では人口集中によって、駐車場の確保がますます離しくなっていく。自動車が小型になれば、屋内に愛車を保管することを前提としたデザインの家が増えてくると推測される。
自動畢は従来の「カタチ」を打ち破り、新しい領域への展開が始まる。
例えば、福祉系や医療系、建設分野、軍事などである。
ホンダは、「歩行アシスト」というパワードスーツの試験を続けている。
また、トヨタ自動車はパーソナル移動支援ロボットとして「Winglet」を開発し、実用化に取り組んでいる。
これは、作業現場や倉庫なとで清掃できる(実際にセグウェイは既に使われている)。
自動車とは「自分の意思で自由に動けるクルマ」のことであるが、改めて「自動車とは何か」が問われることになるだろう。
自動車分野で予測される再編
自動車とエレクトロニクスの「融合」
「電気自動車へのシフト」というメガトレンドの変化によって、電子部品の比重が格段に高まっていく。
具体的にはエンジンやミッション、燃料タンク、触媒など、これまで主力部品とされてきたものがすべて不要になる。
基幹部品は2次電池やモーターになっていく。自動車業界は、これまで別業界であったエレクトロニクス業界との重なりが大きくなる。機械がすべて電子部品になるわけではないが、エレクトロニクスメーカーの立場は強くなっていく。
自動車メーカーは、エレクトロニクスメーカーや電子部品メーカーと取引をしたり、合弁会社を立ち上げて電池の開発を行ったりしている。
しかし、いずれは自動車そのものがエレクトロニクスになっていき、単なるパートナーや部品供給メーカーとしての「連携」といったレベルではなく、「融合」に向かうという予測もある。
本業である自動車業界がエレクトロニクス業界に覆いかぶさっていき、自動車の作り手が自動車メーカーなのかエレクトロニクスメーカーなのか判然としないような「ねじれた構造」が生まれると考えられる。過渡期の中では、自動車とエレクトロニクスで連合したり、系列的に提携しては離脱したりといった動きが出てくる。 中国BYD社のように電池メーカーそのものが自動車メーカーになるケースも出てきている。
■エレクトロニクス業界ではグローバル規模で分業化が進んでおり、製造や組み立てに特化したEMS(電子機器の受託生産〕やODM(相手先ブランドによる設計・製造)と呼ばれる巨大企業の動向が注目される。
例えばトヨタ自動車の最大の部品供給メーカーであるデンソーは、売り上げ規模が釣4兆円である。
これに対して、台湾のEMS企業であるフォックスコン(鴻海精密工業)社は同約6兆円であり、猛烈な勢いで伸び続けている。
ハイテク部品は原価の中に占める設計費や開発費の割合が高いため、量産効果によるコストダウンは絶大である。
EMSの特徴は、様々なメーカーの生産を一手に引き受けて量産している点にある。
フォックスコン社は、世界中の人気商品(iPod、iPhone,米モトローラ社の携帯電話、ニンテンドーDS、Ⅹbox、PSP、プレイステーション3など)の生産を根こそぎ行っている。 しかも、日本の技術者が大量に流れ込んでいるため、金型を作る技術は今や世界トップレベルとなっている。
日本で系列に組み込まれている部品メーカーは、EMSと単純に価格競争をしても勝負にならない。
エレクトロニクス業界の市場はオープンであり、今後自動車業界の市場もオープン化が進んでいくのは間違いない。
それは、「既存の自動車系列の部品メーカー」と、「エレクトロニクス系の部品メーカー」あるいは「EMSと呼ばれる組み立て業者」との間で本格的な競争が始まるということである。
電子部品は技術革新のスピードが非常に速い。機械部品メーカーが量産設備を整えたとしても、最新技術を維持し続けることは難しい。
相手の得意分野での戦いになるため、従来の自動車の部品メーカーはコスト面でも技術面でも専業メーカーに任せるしかないという現実を突きつけられ、水平分業化が進むことは避けられない。
部品メーカーは、エレクトロニクス化していない新興国メーカーを開拓することで生き残りを図ることになる。
一方では、自動車関連技術を生かした新たなビジネスを模索する動きもある。
例えばアイシン精機は、住宅事業へ参入してサッシや安眠ベッドの開発に取り組むなど、自動車以外の分野への進出を図っている。
これまでのような自動車メーカーの系列は完全に崩れ、取引がなかった企業と積極的に手を組むようになるなど、部品メーカー側でも「系列離れ」が進んでいくのは確実だ。
電気自動車へのシフトによって、材料も大きく変わる。半導体材料であるシリコン(Si)や2次電池に必要なリチウム(Li)、モーターなどで使われるレアア-スなど、電子系材料の重要性が高まるのは言うまでもない。
電気自動車ではエンジン車ほどの熱対策は要らないため、金属以外の材料、例えば炭素繊維やガラス繊維を使った新素材が積極的に使われるようになる。
これらは軽量で加工性に優れるだけではなく、再生可能であり、海外に資源を頼らなくても拡大再生産が可能であるという点が注目される。
いったん素材が決まれば、その後、生産プロセスの改善が積み重なって、途中で変えるのは、難しくなる。 素材メーカーとしても電気自動車への転換は千歳一隅のチャンスと見ており、攻勢を強めている。
自動車にブロードバンドが入ってくることによって、通信、ソフトウエア、コンテンツ、ソリュー ションなどを自勤単向けに新しく創り出す必要がある。
しかし、自動車メーカーだけで関連ビジネスを網羅的に独占し、クオリティーの高い商品やサービスを提供L続けることは難しい。
自動車メーカーがサービスを含めて自動車という商品の価値を高めていくためには、他業界との協力体制は不可欠となる。
特に、車内で楽しめるような放送やゲーム、コンテンツ業界との結びつきが強まる。
電気自動車によってクルマの「カタチ」が根本的に変わるため、これまでの常識にとらわれない斬新なデザインが求められるようになる。
ゲームデザイナーやアニメーターといった業界外のクリエークーを起用してコンテンツ分野だけに留まらず自動車そのもののデザインを依頼する動きが活発になるだろう。