コンシェルジェ・ビジネス
コンシェルジェ・ビジネス
「特別感」を演出する最強のポータルサービス
コンシェルジュサービスとは、簡単に言えば、富裕層を対象に至れり尽くせりのサービスを提供する人間によるポータルサービスであり、社会の階層化によって新たに生まれるビジネスと言える。
「コンシェルジェ」のもともとの意味は、ホテルにおいて宿泊客の様々な要望に応えるスタッフの職名である。
現代においては、観光施設や商業店舗をはじめ幅広い業界でコンシェルジュが設置され、「総合お世話係」として手厚いサービスを提供し始めている。
銀行の一都では、金融資産5億円以上の超富裕層などを対象に、コンシェルジェサービスが既に始まっている。
企業のオーナーや投資家など、日本でも富裕層の増加が予想される。
金融所得などによって、かつての日本では考えられなかったような高所得者(=新しい大衆富裕層)が急速に増えている。
コンシェルジェサービスが発達するのは、上流階級の存在とその消費スタイルが確立されていることが前提である。
これまでの富裕層向けサービスは、ごく限られた特別な顧客への「例外的な対応」であった。
マーケテイング上は、一つの消費セグメントとして捉えるほどの規模ではなかったのである。
しかし、近年の日本で生まれた新しい大衆富裕層は、圧倒的に数が多く、従来の富裕層向けのサービスでは対応しきれないし、かといって大衆向けのサービスではニーズに応えることができない、新しいタイブの客層と考えた方がよい。
今後の市場を考える上で最も重要なのは、金融資産1億円以上の富裕層と3000万円未満の大衆層の中間に存在する「大衆富裕層」である。
団塊の世代は、退職金などを元手に株式投資をして資産を膨らませている。また、若い世代でも、特殊なスキルが認められて年収数千万円という高所得を得る「中金持ち」が増加してくる。
彼らは富裕層とは比較にならない圧倒的なボリュームで消費市場をリードする存在になる。
この客層を捉えるポイントは、いかにマンパワーを抑えつつ、一方で優越感を与えることができるか、という点にある。
百貨店の外商部のようなマン・ツー・マンによるフルサービスは無理としても、ITを観み合わせた通信サービスなら可能かもしれない。これからブロードバンドが普及し、様々なことが映像を見ながらできるようになっていく。擬似的な対面サービスもその一つであろう。
ブロードバンドに接続する機器もパソコンだけでなく、携帯電話やテレビ、カーナビなどに拡大していく。
ある程度システマチックにしつつ、なお「特別感」を演出するような新しいサービスを提供することが可能になる。
社会的ステータスと関係が深い商品は、コンシェルジュと結びつけやすい。
例えば、高級車や高級マンションなどは、モノ+サービスの典型となるだろう。
トヨタ自動車の「レクサスオーナーズクラブ」は、事故や故障といった緊急時のサポートはもちろん、カーナビの目的
地設定やお店探しも支援してくれるサービスだ。万一、車への不審者侵入や鍵のかけ忘れがあった場合には、即座に携帯電話へ通知してくれる。
また、アプラスが発行している「ポルシェオーナー限定」のクレジットカードでは、会貞限定の買い物代行サービスである「ECナビコンシェルジェ」を提供している。
最近はコンシェルジェ付きマンションは珍しくなくなっている。宅配便の受け取りや発送、タクシーの呼び出し、クリーニングやメッセージの取次をはじめ、航空券やイベントチケットの手配など多様なサービスに対応する。防犯効果も期待できるため、女性の一人暮らしや高齢者などにとっては非常に頼もしい存在になっている。
レジットカード会社や専門企業が主役
最高級機種の価格が600万円という携帯電話ブランド「VERTU(ヴアーチュ)」は2009年に東京・銀座にフラッグシップストアを出店して注目を集めている。
日本のユーザー向けのメンバーシッププログラム(月額会費5万2500円)では、航空券やホテルの予約、国内外のレストラン情報の提供、ギフト情報の捷供や配送手配、コンサートなどのチケット手配をサポートするコンシェルジェサービスが含まれている。
新しいステータスシンボルとしていろいろなタイプの会員制コンシェルジェサービスが出てくるだろう。
特にクレジットカード会社は、「特別なお客様」をつなぎ留めるサービスとして、コンシェルジェサービスに力を入れてくるだろう。年会費の高いゴールドカードやプラチナカードは上流階級の身分証明として既に定着している。
だが、発行枚数が増え過ぎたために、「特別感」は希薄になってしまっている。
これを打開するために、アメリカン・エキスプレスは、「ごく一部の選ばれた人間」のみを対象とするスーパーゴールドカード「センチュリオンカード」をラインアップに加えている。36万円という高額な年会費を支払うことで、24時間対応のコンシェルジェを私設秘書のように使え、会員のあらゆる「わがまま」に応えてもらうことができる。
コンシェルジェサービスを捷供する会社が増えると、「コンシェルジェ」になる人材を育成する教育機関も活況を呈するだろう。
コンシェルジェサービスの対象は、高所得者がメインであることは今後も変わらない。だが、必ずしも高所得者だけが利用するサービスだけとは限らない。家事や料理の代行、子供やペットの世話なども、広い意味ではコンシェルジェサービスの一部と捉えることができる。
日本ではこれまで一握りの富裕層だけに利用が限られていた特別なサービスも、これからは様々な l層に広がっていくだろう。