収入と貯蓄
収入と貯蓄
貯蓄は今後も伸び続ける
高齢者の増加を背景に、貯蓄現在高は大幅な増加が見込まれる。団塊世代が定年を迎え、退職金の支給で貯蓄の中でも金融資産が大幅に増えるのは確実だろう。
将来の不透明感が増す中で、貯蓄は年々増加すると考えられる。2025年ころには現在の約2倍、3200万円前後まで大幅に増加するという予測がある。
一方、給与水準が高い団塊世代の退職によって、2010年ころまでは平均給与所得が落ち込むと予測されるが、退職金の支給で金融資産が増えることで、金融所得の大幅な増加が見込まれる。
これまで0%に近い低金利の預金として眠っていた資金が、直接的/間接的に投資に向かうことになり、定年後の収入+金融所得で、トータルの平均所得は増加するだろう。
さらに、2015~2020年に人手不足が本格化すると考えられ、給与水準の上昇が予測される。団塊ジュニアが50代前後になる2020年ころには、所得水準がピークを迎える。
1世帯当たりの平均所得は、現在よりも大幅に増加する可能性が高い。
これからは、金融資産を持つ/持たないで所得格差が広がる可能性が大きい。
フリーターや契約社員、年金生活者、生活保護受給世帯(約100万軒)といった低所得世帯も、かつてないほど増加し、核家族化や女性・高齢者の単身世帯も平均所得を下げる要因となり、平均すると緩やかな上昇トレンドに留まる。
2025年には有価証券が占める割合は現在の2倍へ
世帯当たりの貯蓄残高は今後急速に伸び、2025年では2008年比で2倍程度まで増えると予測されている。
理由は、団塊世代が退職年齢に差し掛かり、総額で85兆円と推計される退職金が支給され始めていることである。 高齢者の割合が増えたことで、将来に備えて貯蓄額を増やす人が一気に増え、預金から投資へのシフトが進み、金融所得が増加すると見られる。
資産運用によって生活資金を得る人の割合が増え、日本は本格的な投資国家としての道を歩み始めるだろう。
貯蓄の中でも、低リスクで安全性の高い定期性貯蓄の比率は減少し、比較的リスクもリターンも高い株式や投資信託など有価証券の割合が増えていくと考えられる。
近年、投資信託などのかたちで様々な金融商品の開発が進んでおり、投資が身近になっている。低金利時代の中で、生活費を確保するためにもある程度リスクをとって金融所得を得ようとする人の割合は増える可能性がある。
2025年では貯蓄に占める有価証券の割合は現在の約2倍に伸び、金額的には4倍近くまで増えると予測される。
団塊世代の退職に伴って、金融業界では様々な変化が予測される。
例えば、職場でIT機器に慣れた団塊世代に時間と資金の余裕が生まれることは、ネット証券などにとって追い風になる。 それに伴って、電子マネーの更なる普及や、ネット銀行/証券などで口座獲得の動きが活発化する可能性が高い。
退職を機に、貯蓄としての生命保険を見直す機運も広がるだろう。保険をめぐる各プレーヤーの動向が注目される。
負債が少ないのが特徴的な高齢者
下図は、所得、消費、貯蓄、住宅資産の保有状況を、世帯主の年齢別に示したものである。ここから浮かび上がってくるのは、高年齢層が最も経済的に恵まれているということである。
所得では50~60歳代が最も高く、消費についても50歳代以上の高齢者が平均を上回る。しかし金融資産を見ると、50歳代では1700万円の貯蓄で500万円の負債(大半が住宅ローン)を抱えているのに対して、60歳代では2100万円の貯蓄を持つ一方で、負債は200万円余りとなっている。さらに、70歳代以上になると貯蓄は1600万円と減少するが、負債も100万円強へと減少している。金融資産をほとんど持たない30歳未満や、資産と負債がほぼイコールの中年層と比験すると、経済的な格差は大きい。
住宅・宅地資産で比較すると、40歳代では平均2635万円の住宅・宅地資産しかないが、70歳代では平均でも4267万円もの資産を持っている。
年齢が進むほど持ち家率が上昇し、住宅資産が多くなることが分かる。
30~40歳代の世帯の多くが子供を抱えていることを考え合わせると、1人当たりでも高齢者の方が経済的に余裕があることは容易に推測できる。
シルバー層が今後の消費市場のカギを握っているのは間違いないだろう。
階級化はグローバル化の負の側面
日本社会の象徴であった「一億総中流」は崩壊しつつある。
その要因としては、賃金格差の拡大、資産格差の拡大、雇用システムの多様化、高齢者の増加など様々な変化が重なっている。
今後は高所得者層と低所得者層への二極分化がさらに進み、金融所得だけで生活する「新貴族層」(不労働層)が本格的に形成されるだろう。
グローバル化の進展と共に、賃金体系が大きく変わりつつある。
国際競争の中で勝ち残っていくためには、優秀な人材の確保が不可欠だ。とりわけ、大企業ではグローバルな感覚を持った経営者が必要である。日本ではこれまで一般社員と経営者の所得格差が小さく、上場企業の役員でも報酬は2000万~3000万円台というのが一般的であった。
しかしその給与水準では、海外から優秀な人材を求めることは難しい。 グローバル規模で人材の流動化が進む中、経営層や専門人材については一種の国際相場が確立されているからである。
今や株主代表訴訟は珍しくなくなり、日本の経営者も欧米並みのリスクを覚悟しなければならなくなっている。
日産自動車ではカルロス・ゴーン氏の就任直後、役員報酬を平均1億円に引き上げた。 また、年功序列型から能力主義へと雇用システムが変化していることも、賃金格差の拡大に拍手をかけている。
格差拡大は、経済優先、個人主義といった米国主導のグローバル化がもたらした負の側面であろう。
経営層に加えて、専門知識や特別なスキルを持った人材に対する報酬は欧米並みに上がる一方、中国など新興国との価格競争によって、生産コストに直結する現場の人件費は抑制せざるを得なくなっている。これまで中流層にいた人間でも、いったんブルーカラーへ落ちると給与が伸び悩み、なかなか這い上がるがれなくなる。その結果、社会階級の固定化が進んでいく。
もう一つ階層化を決定付けるものが、金融資産の有無である。投資は一般に規模が大きくなるほど、金利などの条件が有利になる。
投資による金融所得が所得全体の中に占める割合が大きくなってくると、資産を持つ人はより豊かに、持たざる人は全く恩恵にあずかれないということになる。
投資によって増えた資産を再投資することでさらなる金融所得を生む「拡大再生産」が続くと、その格差を自力で解消することは難しくなる。
さらに、その豊富な資金によって子弟に質の高い教育を受けさせることで、格差は世代を超えて引き継がれることになる。
金融資産を持つ「不労働層」は、まさに現代の「貴族」として定着するだろう。
厚生労働省が行った「国民生活基礎調査」によると、2008年の1世帯当たり所得金額は平均で556.2万円だった。前年(566.8万円)と比べると、10万円近く減少している。
これは、給与水準が高い団塊世代の退職が始まったことと、非正規雇用の割合が増加しているためとみられる。
高齢者世帯の1世帯当たり平均所得金額は298.9万円、児童のいる世帯では691.4万円と、いずれも前年より減少している。所得金額の階層分布を見ると、「300万一400万円未満」が13.0%、「200万~300万円未満」が12.8%と最も多い。全体の平均よりも所得が低い世帯の割合が6割以上を占めているのだ。
年間所得が2000万円を超えるような高所得層は、現実にはもっと多い可能性がある。
行政が行うこの種の調査では、高所得者は過少気味に申告したり、回答を拒否したりする人も多い。あるいは、法人を挟んで個人所得をコントロールするなど、節税対策を行っている例も少なくない。
働かなくても生活資金が得られる「新貴族層」は約3%前後との推測がある。
高齢者の増加は、低所得者層の増加を意味する。高齢者は一般に住宅など資産はあるものの、所得は年金頼みという人が多い。
消費税率のアップや医療費の負担が増大することで、可処分所得がさらに低下することが予測される。
このような社会が望ましいかどうかは別として、重要なのは、このような階級化が進んだ社会を前提に今後のビジネスを考える必要があるということだ。