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飛躍的に増加する食料需要

もの不足

飛躍的に増加する食料需要

人口に関連して、高い精度で予測できるのが食料需要である。
下図左は1990~2005年の肉類の摂取量を示したものである。
1990年当時、中国での肉の消費量はEUよりもかなり少なかった。だが、15年間で著しく伸び、EUを大きく引き離すようになった。中国の人口が13億人に対してEUは全体でも5億人足らずだから、絶対数でかなうわけがない。それでも現状では中国の1人当たりの肉の消費量は米国の約半分であり、このまま中国の経済が伸びればさらに肉の消費量は増えるであろう。
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食肉は穀物を餌に育成される。農林水産省によると、畜産物1kgの生葦に要する穀物量は牛肉で11kg、豚肉は7kg、鶏肉は4Kgである。いわば穀物をギュッと濃縮したような贅沢な食べ物なのである。世界中で生産される穀物全体のうち、畜産で使用されるのは3割で、その7~8割が牛肉の餌として使われる。中国の肉類の摂取量は飛躍的に伸びており、例えば豚肉でいえば、中国は世界全体の消費量の50%(2007年)を占めている。世界的に拡大する肉の需要に応えていくためには、人口増加をはるかに上回るペースで飼料用穀物を増産しなければならない。
 一方でインドを見ると、肉類の摂取量はまだ低い水準である。一つの原因は、宗教上の理由がある。ヒンズー教では牛は神聖な動物として崇められているため、食べてはならないことになっている。だが、インド人の全てがヒンズー教というわけではない。経済が発展してくれば、いいものを食べたいと望むのは当然であり、同じように肉類の消書量が飛躍的に伸びる可能性は否定できない。

人口が爆発的に増えていくと食料の供給が間に合うのかが問題となる。

下図は、世界全体の穀物(米、トウモロコシ、小麦、大麦など)需給量の推移と主な出来事をまとめたものである。人口の爆発的な増加と所得水準の向上に伴い、穀物需要は右肩上がりで増え続けている。一方、作柄によって年度ごとの変動はあるものの、需要量の増加に対応して生産量も伸び続けている。
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農産物の生産量を上げるには、耕地面積を拡大するか、単位面積当たりの収穫量(単収)を増やすしかない。
だが、耕地面積自体はほとんど増えていない。
国連食料農業機関(FAO)の調査によると、世界全体の耕地面積は1961~1963年の調査では6.5億haであったが、2002-2004年の調査では6.7億haと、わずか3%しか増えていない。
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理由は様々であるが、環境保護のために農地開発は制約が多く、工場の労働者として働き手を取られたことで放棄された農地も少なくない。だが、最大のネックは「水」である。
人口が増えたからといって、水が自然に循環する量は変わらない。そのため米国や中国、インドなど世界の穀倉地帯はほぼ例外なく水不足に陥っている。代表的な例では、黄河を農業や生活用水として引き込んだ結果、夏場は海まで水流が達しなくなり「内陸河川」のようになってしまっている。
米国中央部では化石水(太古の昔に海水が地中に残存した地下水で、一度汲み上げてしまうと二度と復活しない水)まで農業に使用している。もはや水が循環する限度を超えてしまっているのだ。

農地拡大に限界がある中、食料の増産は単収の向上頼みになっている。1960年代の穀物単収は「緑の革命」と呼ばれる品種改良土壌改良の進歩で、年率3.0%増加していた。だが、品種改良や土壌改良の限界から単収の伸びは低迷し、1990年代以降は年率2.1%と頭打ちになっている。そこで最近では、遺伝子組み換えによる多収性のGM作物を作るようになってきた。特定の除草剤(枯葉剤)の耐性遺伝子を組み込むことで除草剤の空中散布を可能にし(耐性があるため目的の作物は枯れない)、広大な面積を利用して少ない人手で大量に収穫できるようにしている。

2000年に入って以降、世界の穀物在庫量は急激に落ち込んだ。これは、主に中国が人口増加と経済成長によって需要が急増したのに対して、生産量の増加が追いつかなかったためである。期末在庫率は17~18%が安全水準とされているが、2006年と2007年はそれぞれ17%台とギリギリの水準で推移した。ドル安と大量の投機マネーが穀物市場に流れたことと穀物価格が高騰したことで、「食料危機」に陥る途上国が相次いだ。しかし、価格上昇による作付面積の増加や天候に恵まれたことで、2008年以降は20%台まで回復している。

今後は、中国に加えてインドでも本格的な経済成長が見込まれる。食料需要も飛躍的に伸びる可能性が高い。
一方、農地拡大や水の供給には限界があり、品種改良による生産性の向上にも限界がある。
工業製品と異なり、農作物は需要が増えたからといって、短期間で増産するのは難しい。農作物の需給は、これからさらにタイトになっていくだろう。
在庫量の減少によって余裕がなくなってきているため、干ばつや不作をきっかけに日本でも「食料安全保障」への懸念が本格化する可能性が高い。

足りなくなるのは「安全な食」

今後の食料増産で大きなカギを握っているのが先に述べたGM作物である。
既に世界では、日本の耕地面積の約22倍、世界の耕地面積の7%に当たる約1億haで遺伝子組み換え作物が栽培されている。
栽培国も、1996年の3カ国から2006年には22カ国に急増している。
現在のGM作物は農薬や害虫への耐性を目的とするものであり、飛行機による農薬散布などの手間がかからないことが利点であり、収穫が増えるわけではない。
遺伝子組み換えで乾燥や塩害に強い種子を作ることができれば、これまで耕地として使えなかった土地を利用できたり、多収品種を開発できたりする可能性もある。
遺伝子組み換え技術自体は将来的にも極めて重要であるが、問題は、遺伝子組み換え技術も特定の農薬に耐性を持たせるためだけに使われていることである。
つまり、技術が消費者のためというより、農薬をセット販売するという一企業の利益を守るためだけに使われているのである。
さらにもう一つは、安全性に対する十分な議論を待たず、なし崩し的に使われていることである。
今や、非GM作物の方がマイノリティになり始めているが、大豆はGM作物と非GM作物で市場で分けられ、取引価格も違うというように、GM作物に対する抵抗感は日本だけでなく、ほかの国でも未だ根強い。
生育を早めるために遺伝子組み換えや強い化学肥料を使ったり、加工食品では添加物や代替原料を使ったりして、できるだけ量を増やそうという動きが強くなることが予想される。
つまり、手段さえ選ばなければ、生産量を拡大するための技術はある。
ただし無理夫理に増やせば、その分は今の基準からすると「まともな食」とはとても言えないものになる可能性が高い。
絶対量は確保できたとしても、安全な食料は足りないままということである。
食料を海外に依存するということは、「命」を外国に預けるのと同じである。食の安心・安全に対する消費者の関心は、かつてないほど高まっている。
量が確保できるだけでは不十分で、品質も同じぐらい重要なのであるが、海外依存では安全性の保証には限界がある。
これから食料需給が逼迫してくると、安全な食料を調達することは一層難しくなることが懸念される。

「食料ナショナリズム」~各国で始まった輸出規制

世界規模の「食の争奪戦」は、既に現実化している。
水や農地に限りがある中、中国に続いてインドで本格的な経済成長が始まると、食料の需給はどうなるのか。
既に、世界市場では供給の逼迫が目立ち始めており、食料を外国に輸出することを制限する「食料ナショナリズム」の動きが出始めている。
2007年初頭から、食料輸出に対する各国のスタンスが一斉に変わり始めているのである。
例えば中国は、2006年までは外貨獲得のために輸出奨励金を付けて農作物の輸出を促していたが、2007年からは一転し、小麦、トウモロコシ、コメ、大豆および大豆加工品に対して輸出関税をかけて規制を始めた。
また、インドは2007年から米、小麦部、玉ネギ、乳製品などの輸出を無期限で停止した。
これ以外にもロシア、アルゼンチン、ベトナム、パキスタンなど、様々な国が農作物の輸出禁止や輸出規制に踏み切っている。
人口増加と経済成長に伴って、農作物の需要が増えるのは間違いない。
さらに、食料需給の逼迫に追い打ちをかけるのが「バイオエタノール」である。 
2006年初頭に米国政府が「石油依存からの脱却」という方針を表明して以来、その生産量は急増しており、今や、米国におけるトウモロコシ生産の約3割はバイオエタノール向けとなっている。
農作物は、再生産可能な工業原料としても注目を集め始めている。例えばトヨタ自動車は、サトウキビやサツマイモなどから作ったポリ乳酸でバイオプラスチックを生産し、既に一部車種に採用を始めている。これからの農業は、単に食料を生産するための産業ではない。エネルギーや工業原料などの分野へも事業領域が広がり、21世紀を代表する成長産業になっていく。いずれにしても農作物の需要が飛躍的に伸び続けるのは確実であり、農作物は買い手市場から売り手市場へと変わっていく。他の資源と同様、食料は重要な「戦略物質」と位置付けられる。
農作物は今や、石油に匹敵する価値があるのだ。これからは、農業生産力を持つ国の発言力が高まるだろう。

日本や韓国は先進国の中でも食料自給率が特に低い。
日本の食料自給率は41%に過ぎず、食料の大半を輸入に頼っている。新興国や発表途上国にとって農作物は外貨を嫁げる貴重な商品であり、その買い手である日本は得意先であった。
しかし、2008年ころから小麦の価格が高騰するなどし、日本は世界中から食料を買いあさる国として非難を受けるなど風向きは完全に逆になった。
中国は2000年ころに食料不足で自給率が95%程度まで低下したが、いろいろな手を打ち、何とか歯止めをかけて自給率をほぼ100%にまで回壊させた経緯がある。
中国やインドのような巨大な人口を持つ国の自給率が数%でも低下したとき、不足した分の穴埋めができるような国は存在しない。
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世界中で魚の消費量が増大

魚介類に対する世界的な需要は増加の一途をたどっている。
1950年における総生産量は1986万tだったものが、2007年には1億5637万tと釣8倍に著しく増加した。
下図には養殖も含まれているが、それは全体の4割に過ぎない。21世紀に入っても魚介類の生産は全体の約6割を「狩猟採集」に頼っており、しかも生態系がよく分かっていない(=再生産できない)ものが多い。
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特に生産量が増えているのは中国である。
1950年には100万tにも満たなかったものが、2007年には5616万tと60倍近くも増えた。
現在、中国の海産物の生産量は世界全体の1/3を占めており、これが世界全体の生産量を底上げしている。これは生産量ベースのデータであるが、消費量で見た場合もこれに近いトレンドになるだろう。
中国では、その国土の大半が海に面していないために海の魚にあまり馴染みがなかったこと、さらに死んだ魚を敬遠するという習慣もあって、魚といえば淡水魚がメインであった。
海産物の消費は限られていたが、経済成長に伴って、特に沿岸部の富裕層の間で高級食材として人気が高まっている。
寿司や天ぶらなどの和食が世界的に広がっていることも、少なからず影響を与えているとみられる。
欧米でも「ヘルシーフード」として好んで食べられるように、近年は日本の「買い負け」が目立つようになった。

絶滅・枯渇が危惧される海産物

国連食料農業機関(FAO)では、水産物に対する世界の総需要量は2015年には1億8300万tまで増え、年率3%台のペースで価格上昇が続くと予測している。
だが、海面漁業の生産量は頭打ちになっており、1990年以降の生産拡大を支えてきたのは養殖である。養殖は現在、生産量全体の4割を占めている。
今後も、海面漁業で生産量を大幅に増加させるのは難しい。増え続ける需要に応えられる可能性があるのは養殖しかない。

水産物の需要増は将来的にも確実である。
乱獲や環境悪化などにより、海洋資源の枯渇を危倶する声が強まっている。現在、漁獲可能量(TAC)制度や資源国復計画などにより、資源の保存・管理が進められている。
沿岸域の開発や回復力を上回る漁獲などによって、周辺海域で評価が行われているポイントの半分では、依然として資源の低位水準が続いている。
このまま行くと、現在商業利用されている全世界的の水産資源は2050年までもたないだろう、と警告する科学者もいる。
そこまで極端ではなくとも、狩猟採集型のまま需要が増え続ければ、やがて資源の枯渇を招くことになるのは明らかだ。
魚群探知機などテクノロジーの進歩で、今や短時間で「確実に」魚を獲ることが可能になった。
特に近年は原油価格が上昇しているため、燃料代を抑える目的としても、大型船を使って漁場まで往復する回数を少なくしている。
漁業にも「経済効率」が強く求められるようになっている。
だが効率の追求は、結果的には水産資源を回復不能なレベルまで追い込み、自分のクビを絞めることにもなっている。

食料確保は国家安全保障の一環

食料は本来、「自給自足」が原則である。食料を確保することは、国が国民の生存権を保護するための最も基本的な条件だからだ。
現在、日本の食料は主に米国と中国によって支えられている。
だが、この2ヶ国が将来的にも食料の輸出を保証してくれるわけでない。
日本は1億人以上の人口をかかえており、この胃袋を満たすだけの食料を輸出できる国はごく限られている。
結局日本は、安全保障のためにも国内生産を増やすしか方法はないのではないかと思われる。
食料確保は国家安全保障の一部なのである。「自由貿易」を標榜する米国でさえ、農作物に限っては莫大な補助金を出して保護している。これはEUも同じだ。
他国に食を握られることは、核兵器よりもはるかに現実的な「脅威」になる。自由に売買できる一般商品として扱うわけにはいかないのである。
自給率41%という日本は、食料安全保障という点では無防備に近い。

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