高齢化と少子化
高齢化と少子化
過去の延長線とは違う日本社会
厚生労働省の外郭団体である国立社会保障・人口問題研究所の予測によると、2050年に国内人口は1億人を大きく割り込み、2100年には現在のおよそ半分の6400万人程度まで減少するとしている。
だが、これはあくまでも過去の延長線上で計算を重ね、人口動態だけの観点から予測したものであり、実際にそこまで人口が減り、高齢者ばかりになってしまうとすれば、国が立ち行かなくなるだろう。
現実には外国人の流入、婚姻率の上昇、平均寿命の延長など様々な変動要素があり、今後予測が変わる可能性が高い。
5~10年程度の短期・中期予測は信頼性が高いが、30年先、50年先といった長期予測は変動幅が大きいことに留意すべきだ。
ビジネスの影響を考える上で重要なのは、絶対数の減少よりもその中身である。
特に、労働人口の減少は深刻だ。
人口減少が本格化するのは2020年以降と予測されるが、労働力人口の方は1997年をピークに、既に減少が続いており、平均年齢も延びている。
これから若年労働者が足りなくなるのは、ほぼ間違いないと見られる。
特に、サービス業では人手を確保できないことは死活問題となる。 現実的な解決手段としては、移民を受け入れて埋めていくしかないと思われる。
人口減少は既に先進国に共通する課題であり、「国のサステイナビリテイ」を揺るがすものである。
2009年2月に内閣府が行った世論調査では、出生率の低下に83%の人が危機感を抱いているという結果もある。
出生率の上昇が社会的な関心事となり、様々な政策的支援が打たれることが予想される。
また、ビジネスで継続性が重視されるようになるにつれて雇用の安定性も高まり、それに伴って婚姻率や出生率は緩やかな上昇に転じる可能性も高い。
即効的な手段として、移民の積極的な受け入れも始まるだろう。
ということを鑑みると、人口減少のペースは当初の予測よりもずっと緩やか、もしくはほぼ横ばいに落ち着くことが推測される。
将来的な平均寿命は100歳を越える可能性も
日本は、人口の約1/3が60歳以上という超高齢化時代を迎えており、日本人の平均寿命は女性が85.8歳、男性が79,0歳と既に世界のトップにある。 21世紀に入って、医療は生命の根源であるDNAにまで到達する等の医療技術の進歩でこれから一段と延びる可能性も高い。
ゲノム(遺伝子)医療や再生医療といった革命的な技術が実用化され始める一方で、老化のメカニズムの研究も進み、これを応用したアンチエイジング技術も進歩してきた。
今や、平均寿命が100歳を超えることも夢物語ではなくなってきている。
しかし、寿命が延びることは必ずしも良いことばかりではない。
世代交代を遅らせて社会全体を沈滞させるという懸念もあるし、高齢者の飛躍的な増加で医療保険や年金など、社会システムは大幅な見直しを迫られることとなるであろう。
高齢者ばかりでは企業は人手を確保できず、政府は税収や社会保障負担が落ち込み、最終的には国が成り立たなくなってしまう。
日本社会の多民族化
日本は人口減少に向かうが、世界全体で見れば人口は爆発的に増加する。
高齢化と人口は多くの先進国で共通するトレンドであり、若年労働者は世界的に不足気味になるだろう。
国は、いわゆる「優秀な人」、すなわち国の発展に貢献し、多額の税金を収めてくれる人を競って集めるようになるであろう。
日本でも、若年層を中心に外国人労働者が急激に増えていくことも予想される。
現在、日本における外国人居住者の割合は1.6%に過ぎない。外国人労働者が増えれば、その人の親類縁者の訪問や定住者も増える。海外では、人口の6~10%程度を外国人が占めているのが一般的だ。1.6%ではあれば「例外」で片付けられるかもしれない。だが、それが3%、5%と増えていけば、外国人の存在は「前提」になる。日本は「外国人と共に暮らすことが当たり前」の社会になっていくだろう。
スピードを速める人口減少
若者が足りないからと今から努力を始めてもいきなり20歳の子供を生むことはできないし、逆に戦争や疫病などがない限り人口が急に減ることもないからである。
ここから見えてくる未来は人口が減り続ける社会であり、この「人口減少」は、「少子化」と「高齢化」という二つの側面から考える必要がある。
国立社会保障・人口問題研究所が出している予測値によると、2004年をピークに、日本では人口減少が始まっており、2008年の合計特殊出生率は前年の1.33から1.37へと、3年連続で上昇を続けている。 だが、これは35歳前後に集中する「団塊世代ジュニア」の駆け込み出産という特殊事情に因るところが大きいとみるべきで、医学的には35歳以上は高齢出産で、リスクが上がる為、出生率の低下よりも出産適齢期の女性数が減る影響の方が大きいということではないかと推察される。 多少出生率が上がっても子供が減り続けるという傾向は変わらないだろう。
高齢化という点では、ゲノム(遺伝子)診断など画期的な医療技術の実用化が進むことで、死亡率は大幅に低下する可能性がある。
それは、高齢者の数が予想以上に増え、人口減少が緩やかになるということである。
ただし、高齢者が増えることで人口減少に歯止めが掛かったところで、人口減少という問題を本質的な部分で解決することにはならない。
人口減少の幅とタイミングは年齢層で大きく違う
人口予測で特に注目すべきは、絶対数の減少よりも年齢構成の変化である。
下図は、庶人□、高齢者人口(65歳以上)、生産年齢人口(15~64歳)、年少者人口(0~14歳)に分けて、それぞれの推移と予測を示したものである。
平成17年国勢調査(最新)によると、2005年10月現在、15歳未満の人口は13.7%、15~64歳が65.8%、65歳以上は20.1%という構成になっている。つまり、人口の5人に1人は既に高齢者ということである。
人口問題研究所の予測によると、高齢者は今後も増え続けて、2042年ころにピークとなる約3800万人に達するとしている。 高齢者の割合は2007年から2015年ころにかけて、ハイペースで増加していくことに注目すべきであり、これは、いわゆる「団塊世代」が高齢者層に入ってくるためなのである。
年少者人口の減少が始まったのはさらに早く、1978年の団塊ジュニア世代が最後であった。
1998年には、年少者人口が高齢者人口を下回るという逆転現象が起こっている。
1990年代に入って少子化問題がたびたび取り上げられるようになり、政府は「エンゼルプラン」という総合的な対策を打ち出したり、少子化担当相を設けたりなど様々な試みを行った。
だが、現在に至るまで全くといっていいほど歯止めが掛かかっていないのが実情である。
このまま有効な対策を打てなければ、国民の半分近くが高齢者という、超高齢化社会が確実に訪れることになる。
生産年齢人口については、1995年の8725万人をピークに減少の一途をたどっている。労働市場という観点から見た場合、人材確保をめぐってし烈な競争が始まることが容易に想像できる。
21世紀型の産業では「人」が最も主要な経営資源である。
人口減少社会の中でいかに優秀な人材を確保できるかが、企業の将来を決定付ける要素になるだろう。
「円熟」の時代へ
人口ピラミッドを見ることで、これからの社会がどのように変化するかが具体的に見えてくる。まず、今後10年で最も大きな変化は、ボリュームゾーンである団塊世代が生産者層から高齢者届へ移動することである。この層は退職によって時間とお金に最も余裕があり、肉体的にも精力的に活動できる人が多い。 少なくとも今後10年間は、彼らが「オピニオンリーダー」として社会を主導するだろう。
つまり、エネルギーには欠けるが、円熟した「大人の社会」になるということではないだろうか。
人口構成でもうーつ注目すべきなのは、団塊ジュニア層である。現在30代半ばのジュニア層がこれから40代、50代へと上がってくる。2025年には、団塊ジュニア層が社会で中心的な役割を果たすようになるのは間違いない。
体力と経験のバランスが取れた人材が充実し、社会は再び「活力」に満ちてくるだろう。
ただ、問題は晩婚・非婚化や出生率の低下なとで、「団塊ジュニアのジュニア」層が少ないということである。
会社でいえば「上司はいても部下がいない」という状態である。
この現実は、今から頑張って出生率を上げられたとしても挽回できない。
先進国における中核ビジネスは「高付加価値」と「サービス」が特徴であり、いずれにしても人材が不可欠である。
現実的な対処としては、20-30代を中心に外国人労働者を受け入れるしかなく、その規模は数百万人という単位にならざるを得ないだろう。
安定志向による婚姻率の回復、そして外国からの移民を含めた若年人口の増加で、出産数は相当数増えると予測される。
「人生100年時代」へ
2008年現在、日本の平均寿命は男性79.29歳、女性86.05歳と3年連続で過去最高を更新している。
国・地域別では、女性は24年連続で世界一、男性はアイスランド(79.6歳)、スイス(79,4歳)、香港(79.4歳)に次ぐ第4位となった。
下図は厚生労働省の「簡易生命表」(平成18年度)に基づいて、2050年までの日本人の平均寿命を予測したものである。
平均寿命は、食生活の変化や医療技術・医薬品の発達、社会福祉制度など様々な要因が絡んでくるため、長期的な予測は難しいが、過去の推移を見ることで、一定の確度で将来を読むことができる。
前提条件が今と大きく変わらないとすれば、2025年時点で女性の平均寿命は88.4鼓、男性は82.2歳まで延びることが期待される。
ただ、この先15年で平均寿命は過去の延長線上にはない延びを見せるかもしれない。
21世紀に入って、人類は「ゲノム(遺伝子)」という生命の根源までたどり着いた。遺伝子情報を解明することで、その情報を基に創薬や診断・治療を行うなど飛躍的な進歩が始まっている。脳卒中やガン、心臓病など、これまで死亡原因の上位を占めていた遺伝的な病気は、ある程度まで克服できる可能性がある。さらに、遺伝子を操ることで、自分の細胞を使った臓器移植なども実用化の道筋が見え始めてきた。老化のメカニズムも解明が進んでおり、将来的には老化防止薬を作ることも夢物語ではなくなっている。このような医療技術の進歩を織り込めば、図中の点線で示したように、2050年までには「人生100年時代」が現実化する可能性も高まっている。
一方、平均寿命が延びてくると、様々な課題も浮かび上がってくる。
典型的なのは、終身雇用制度や年金利度といった社会システムの見直しである。
現在のシステムは人生が70年であった1960年代に設計されたものであり、寿命の前提が変われば制度の見直しが必要になってくるだろう。
知的労働が中心になる21世紀では、肉体的な衰えを理由に60~65歳で「定年」とするシステムは、実情に合わなくなる。
培った経験や知識、人脈が失われることは損失であるのはもちろん、社会的にも納税の減少、社会保障額の増加など負担が増える。人手不足を背景に、定年を延長または廃止する企業が続出するだろうと予想される。
婚姻件数の減少が続く歴史的転換
婚姻件数は1971年の1091万件をピークに減少傾向が続いている。
2007年現在では約720件であり、この30年で約3割減少したことになる。2005年から2007年にかけては若干増加が見られるものの、団塊ジュニアの中心が高齢出産の境目である35歳に差し掛かっており、出産適齢期の女性は今後、一気に減少する見通しである。それに加えて、晩婚・非婚の傾向は当面続くとみられ、婚姻件数の減少に拍車がかかると予測する。
未婚は、希望しているものの適切な結婚相手が見つからない「晩婚」と、人生の選択肢として結婚そのものを選ばない「非婚」に分かれる。理由は様々だが、女性の社会進出が進み、結婚よりも仕事や自由な生活を選ぶライフスタイルが定着してきた影響も大きいだろう。
一方、男性側もコンビニエンスストアなどの浸透で生活が便利になり、家庭を持たなくてもそれなりに暮らせるようになった。子供を望まなければ、差し迫った結婚の動機がなくなりつつある。「結婚しない」原因の根は深い。
だが、中長期的には結婚志向が強くなるとの予測もある。
キャリア志向がもてはやされた時代を過ごした団塊ジュニアの女性か、30代半ばに差し掛かっている。中高年女性がリストラされると、再就職は男性以上に厳しいのが現実である。
自由な生活は魅力ではあるが、老後を考えると不安は大きい。 これからはいろいろな意味で、不安の多い社会になる。
世界的には米国の凋落で国際秩序が揺らぎ、テロや紛争が増加するだろう。ビジネスでは様々な業界で再編が進み、先行きの不透明感はさらに増す。
社会全体で「サステイナビリテイ」が叫ばれる中、プライベートでも安定志向が強まり、「家庭回帰」の傾向が強まるのではないかということである。
国としても出生率の向上は最重要課題と認識されるようになり、様々な支援が行われるようたなるであろう。
民主党が実施した「子供手当」は、まさにその先駆けと言えよう。
将来の保障がない契約社員ヤアルバイトが増えて、経済的な理由で結婚できない男性は少なくない。
政府の支援によって経済的な不安が減ることは、婚姻のハードルを確実に下げるだろう。
婚姻の件数は減少するものの、婚姻率については上昇が期待できる。
初婚年齢も若干低下する。
婚姻数全体では適齢期の女性が少なくなることで大幅に減少することは避けられないが、再婚件数は堅調に推移し、婚姻教全体の減少を下支えするということが予想される。